鬼の旅_05 鶴岡・湯田川温泉甚内


一昨年に続き二度目の鶴岡。
庄内藩校・致道館を覗く。







ここでは、
荻生徂徠の学風を継ぎ、知識の詰め込みを廃し自学自習を重視した。
庄内藩は、家康の側近四天王の一人、酒井忠勝を祖とし、
肥沃な庄内平野を背景に幕末まで続いた雄藩である。
鶴岡出身の藤沢周平署「長門守の陰謀」「義民が駈ける」の如き廃藩の危機は何回かあったようだ。
「義民が駈ける」に見られる藩士と領民との一丸となった凄まじい郷土愛によって危機を克服してきた。

会津、桑名、庄内、と言えば、
言わずと知れた戊辰戦争での幕府方の中心藩だ。
その中でも、庄内藩は最後の最後まで新政府に抵抗した。
会津藩の敗北の後、只一藩孤立し遂に降伏するが、
その際の薩摩藩・西郷隆盛の降伏処置が極めて寛大であったことから、
以後、庄内・薩摩の友好関係は今に続く。
芯が強く義理に弱い、そんな気風を感じる。
藤沢周平の描く気骨と人情が色濃く残っているのだ。


湯田川温泉。
奥から甚内の女将が笑顔で駆け寄ってくる。
こぼれるような笑顔は相変わらずだ。
甚内の女将の笑顔の奥に庄内人の気風・気骨が滲む。
何代目かは聞き損じたが、
ここ甚内では代々女将が直接料理を作る伝統があるのだそうだ。
今回の東北の旅の眼目の一つはその甚内の女将の作る筍料理だ。
甚内は藤沢周平が定宿だった事でも知られている。

由豆佐売(ゆずさめ)神社、
映画「たそがれ清兵衛」のロケ地である。





真田広之演じる清兵衛が、
子供達と宮沢りえ演じる朋江とを連れだってのお祭り見物のシーン、
「湯田川神楽」も一服の慰みだった。

 

鶴岡市生まれた藤沢周平は鶴岡市湯田川中学校の教員を経て、
昭和48年「暗殺の年輪」で直木賞を受賞。
その後、庄内の人と歴史を扱った作品を多数発表。
代表作に先述の「義民が駆ける」「回天の門」などがある。
斎藤茂吉、横光利一、種田山頭火、竹久夢二達も湯田川温泉に逗留している。
横光利一の奥さんは庄内人らしい。


湯田川温泉の筍。
冷たい雪解け水がしみ入る土の中で芽吹き、春の訪れと共に顔を出す、
えぐみのない色白でやわらかいさ、これが美味しさの秘密らしい。
また、早朝、収穫から5時間以内のものを「朝堀り」と言い珍重される。
掘ってから料理するまでの時間はできるだけ短いほどよいのだ。
そんな筍料理が並び始める。



女将が現れた。
何時現れて何時居なくなったか判らない。
不思議な立振舞?佇まい?だ。



 


(北澤氏撮影)


(北澤氏撮影)


(北澤氏撮影)

孟宗汁、
朝堀りの地孟宗筍に厚揚げや椎茸を加え味噌と酒粕仕立てで煮た郷土料理。
噛むほどに独特の甘味が口の中に広がる。

かっぽ酒、

 

孟宗竹に地酒を注ぎ入れ温める。
飲む程に竹の香りと甘みが絶妙に溶け合う。

焼筍、


(辻氏撮影)

採り立ての若竹を皮付きのままタテ割にし焙る。
その形は艶かしい女性の櫛か簪を連想させる。

明の高啓(1336〜1374)の詩にこんなのがある。

幽人嗜焼筍
出土不容長
林不弧烟起
風吹似竹香

「出土不容長」は、
土から顔を出したら長く置いてはいけないよ、くらいの意だろうか、まさに朝掘りだ。

筍の字を分解すると竹かんむりに旬、竹の旬だ。
「ハハーン」
と頷ける。

たけのこご飯、筍の天麩羅、



若たけ煮。

 



お宝の絵が掛かっている。



 

デッサンが非凡だ。

女将がポスターに載っている。
山形県内各町村の美女を一堂に集めたものらしい。

 

翌朝、
我々と入れ替わりに団体さんが着いた。
甚内は繁盛しているようだ。
そんな忙しさを決して顔に表さない女将の笑顔の送られる。



終わり

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