台北記6

故宮
バスが故宮の玄関脇までズカズカと入り込む。
3時間半が与えられた時間だ。



2階からエレヴェーターで4階に行くと言っている。
ガイドに附いて行くか、単独行動するか、一瞬迷う。
よし単独行動ときめて、売店に入る。
小堀さんご紹介の[五千年神遊眼福]を求める為だ。
残念ながら[五千年神遊眼福]は品切れで、CDしかない。
別の案内本を探すのは時間がもったいない、直ぐにガイドの後を追う。

2階のロビーというか、エレヴェーターの前の空間の左右にある、
高さが7、80センチくらいの陶器の前で、ガイドさんの名調子が始まっている。
私は焼き物の知識は全く無く、趣味で収集している小壷の殆どが名無しの権兵衛。
せいぜい、備前、萩、丹波、くらいしか判らない。
模様がある焼き物は、何回聞いても、直ぐ忘れてしまう。
今眼前に有る、龍の壷と、桃の壷は、飾って有る場所が場所だけに、きっと、
名壷なんだろう。
ガイドさんツバを飛ばして、壷の由来を話している。
桃の壷の桃の数は9個、龍の爪は3本、
桃は不老長寿の印、数字の8が喜で、9は最高を示す、龍の爪は、5つが皇帝、
4つが神様、3つは皇族、昔もしもこの数を間違うと打ち首だった。
この龍の壷は皇族の持ち物だと言う事が直ぐ判る。
後で見た帽子に付いている真珠の数、15が皇帝、13が皇太子、11がなんとか、
ミンクの皇帝の普段帽のトサカについてるのは赤、
これを皇帝以外が被ったら皇太子でも打ち首、
これらの数字は、王朝維持の為の、誰にも判る、序列の明確化だったとか。
それでも、清は滅びた。
それだから、清は滅んだ。

有名な、ヒスイでつくられた翠玉白菜、
白い白菜に二匹の緑のキリギリスが食らいついてる。



彫物の見事さは兎も角、この彫物にまとわるいわれが泣かせる。
この時代、あの悪名高い宦官がはびこった、
忠義の士が何度も死を賭して悪政を戒めんとした。
しかし、どんな戒めも宦官の企みで皇帝まで届かなかった。
皇帝が好む玉の彫物にこれを託した。
白菜に食らいつく二匹の宦官、これを見た皇帝ハタときずいて、
この二人の宦官を処刑したのだと。

清の時代の装飾品が面白い、というか凄まじい。

皇帝の中宮の腕輪。
ヒスイ、金、さんご、あと忘れたが、六つか、七つ、有ったように思う。
どれも凄い細工が施して有る。肉眼でやっと見える精緻をこらしている。
このどの腕輪も、みな中空になっていて、其の中に玉(ぎょく)の玉(たま)が入っている。
中宮がこの腕輪をはめて、皇帝の寝室に近づくと、
中空の玉が清音を発して、[中宮のお出まし]と相成るそうだ。
もしかしたら、皇帝と中宮が逆かも。

大きな勲章な様なものがたくさんある、どの一つ一つも彫物細工の
豪華さ、精緻さが目を見張る。
[これが何だか判るか]のガイドの質問に誰も答えられなかった。
想像を絶する。
これがボタンだと、まあいい加減にしてくれと言いたい贅だ。

先ほどはロビーの焼き物だが、今度は焼き物の部屋の焼き物、
ガイドさん、これだけは見ておけ、と、急ぎ足で、
汝窯、何と読むのだろう、宋の名窯だそうだ。





何という美しさだろう。
強羅の美術館で青磁の美しさに唸った事が有るが、
また、格段と違う。
微妙に変わっていく晩秋の空の色、
とでも言い尽くせない、淡い青から少し茶の交じった白までの変化、
熱で自然に刻まれた千々の薄い朱色の焼き皺、
とても、人間の作ったものとは思えない。
ルーズベルトがこの焼き物一つアメリカにくれたら、今の故宮の
6倍の故宮を作ってやると、蒋介石に持ち掛けたそうだ。
慌てず調べた、蒋介石は丁重に断った。
何しろこの汝窯は世界に30個くらいしか残っていないのだ。
その内の20数個がこの故宮にある。

そういえば、唐三彩が余り見えないのは、
代々の皇帝が唐三彩を忌み嫌ったそうだ。
理由は聞き逃した。

ガイドさんの名調子は続く。
このガイドさんの見識の高さには驚かされる。
なにしろ、古今の中国の歴史、文化、政治、経済、教育、要するに
何でも知っている。
それでいて、とても信心深い、午前中の龍山寺で、両手を頭の上に捧げて、
大声で何か祈っていたのが印象的だ。
龍山寺の後ろの方に、旅の神、懺悔の神、競走の神、
とか沢山の神様がいたが、其の中の一つの、受験の神の[霊験あらたか]
さを、身を以って示した。
「私は、ここにお祈りしたら、先生を定年で辞めてからの
ガイド試験一発で受かった。 息子も台湾大学一発で受かった。」
と。

ところで、日本からの添乗員のお嬢さん、目を真っ赤にしている。
今回のツアーは書が主体であり、ツアーのオーナーから書を見る時間が
無くなってしまうとクレームが付いたようだ。
オーナーと現地のガイドとの間に入って搭乗員さん苦悩している。
当のガイドさん、それじゃーあんた達勝手におやんなさいと、
ベンチに座り込んでしまった。
こちとらは、明日か、明後日もう一度チャンスがある。
ならばと、4階の喫茶室で一息入れる。
Bさんの情報あればこそです。

つづく



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