書の歴史24/清時代の書(1)

明末から清の始めに掛けて、
政治的、社会的、民族的に大混乱を呈した。
前述の董基昌等は革新的な方向を目指したが、
そんな動きを斜め目に見ていた張瑞図、王鐸、傳山等の文人達は
それぞれに、一風変わった書風に走った。
しかし、中国書道の本流には董基昌がおり、
彼の流れを汲む帖学派が主流を占めた。
この流れに逆らって登場した変り種が金農、鄭燮である。

かくて、19世紀の初頭から中国書道上にかってない変革が訪れる。
阮元、包世臣の説く碑学の登場である。


金農
(1687-1763)
号は冬心。
生涯、官に付かず諸国を遊歴した。
早くから詩文に優れ、金石を愛し拓本を集めた。
書は八分隷書を学び、その上に彼独特の作風を確立し、
清朝文人中に異彩を放った。
独特の肉太な方形、横画のみを太く書く裁鋒筆体が良く知られている。

世説新語 顧長康一則



尺牘



鄭燮(1693-1765)
号は板橋。
知事職を歴任したが、元来の詩酒を好む性格から、
官吏に適さず、病と称して故郷に戻り、
詩書画の生活を楽しむ。
楷書に篆書隷書を混ぜた書法は、
痩せて強く、かつ、独特の趣を見せる。

画竹題記




懐素自序帖語


ケ石如(1743-1805)
生家は貧しく幼児から薪を採り、百姓をし、餅を売り歩いたと言う。
書刻で生計を立てていたが、
その天稟をして名家に招かれ、食客を転々とし、
その間に、石鼓文から始まる篆書、更に漢隷を深く学び、
遂には是を会得完成すし、
は中国書道の巨星として名を残す事になる。
包世臣に伝授した書の極意とも言うべき言葉が残っている。
「疏なるところは馬をも走らすべし。密なるところは風邪をも透さしめず。
常に白を計りてもって墨に当てつれば、奇趣すなわち出ず。」
奇にてらわず真正面から正統な書に対した強い意志と重厚な性格、
積み重なれられた見識をもってしてたどり着いた境地であろう。

四体帖(1792)
55歳の作。
篆、隷、楷、草、四体で書かれているが、
篆、隷が最も優れていると言われている。

怪石長松撥テ聳震
擇故山濱水地環籬値



阮元(1764-1849)
清朝の高官を歴任し、
学者としては元より子弟教育に努め文教の振興を計った。
著述も多く、中でも、
金石資料に基づく書論で北碑を正統化した清代の碑学派に強い影響を与えた。

望君山  五言律詩(1817)
阮元は特に書の習得に力を入れてなかったらしい。
自然流で書いた字が清らかで品位がある。
金石学に長じていたせいであろう。



阮元・尺牘

暑七日泛舟帰接一次



包世臣(1755-1855)
若くして高官になったが、辞して寓居の道を選んだ。
広く古人の書を学び逆入平出、峻落反収に技法を案出し、
「書は気力の充満することが肝要」と説き、
阮元の書論と共に北碑派の流行の中心となった。

包世臣・額字



包世臣  韓愈・榴花 七言対聯 
側筆で縦横転折の面白さを出す。
碑学を唱えながら北碑の意が示されていないと、
碑学派の人々から顰蹙を買った書である。

五月榴花照眼明



林則徐(1785-1850)
言わずと知れたあのアヘン戦争の勇士である。
今でも中国人民の多くに愛されている。
再度に亘る辞任、登用の合間にも、
筆を放さなかった能筆家としても知られる。

林則徐・七言対聯
愛国の英雄らしい気迫の篭った字だ。




呉熙載(1799-1870)
字は譲之とも称した。
包世臣の忠実な弟子であり、
二人の書法に関する書簡の往復が残っている。
包世臣が篆隷に重きを置かなかったのに対し、
呉譲之は篆隷を重視した。

七言対聯




呉熙載・聖教序

松風水月未足比其精華




何紹基(1799-1873)
恵まれた環境に生し、若くして諸学を学んだ。
しかし、進士に合格したのは36歳であった。
幾つかの官職を経て官との意見の相違が元で官職を辞す。
若年より諸国を歴訪し、古碑を尋ね諸国の文士と交流を重ねた。
詩、絵画でも一家を成した。
私は以前から何紹基に惹かれれているが、
その切っ掛けは思い出せない。
岳陽楼に何紹基の対聯を見出し、
懐かしく思ったことがあるのは、
それ以前に何紹基を見知っていた筈である

黄庭堅・山谷題跋中語
何紹基は当初顔真卿に傾倒し、後に北碑、篆隷を極めたと言われる。
彼の作品の随所にそれが現われている。

愛其山川故為余友元翁


七言対聯



平原対聯
平原不復賦豪士 甫里但思歌散人



引用文献
講談社刊:古筆から現代書道まで墨美の鑑賞
東京書道研究院刊:書の歴史
芸術新聞社刊:中国書道史
木耳社刊:中国書道史(上卷)(下巻)
二玄社刊:中国法書選
芸術新聞社刊:中国書道史の旅
大修館書店刊:漢字の歴史
平凡社刊:字統
平凡社刊:名筆百選
講談社刊:古代中国
創元社:書道入門
平凡社:書道全集第8巻、第10巻
講談社:現代書道全集
二玄社:書の宇宙


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