書の歴史17/北宋の書(3)
蘇軾(1036-1101)
字は蘇東坡。
政争に破れ政治家としては不遇な生涯を送ったが、
その不遇な生涯を糧として、優れた天分と豊かな情操を駆って、
学問、宗教への深い造詣、を基盤に才筆を揮い、
その詩文は当時の人々に大きな感銘を与えたのである。
書、画にも通じ、
典型的な宋代文人として世の崇拝の的になった。
その書には、
「人格」「気迫」「筆力」「線の豊かさ」「生気」
が紙面に踊っている。
洞庭春色賦
古今の文人がこぞって洞庭湖を訪れ詩を残している。
李白、杜甫、白居易、孟浩然・・・・数え上げたらきりが無い。
昔聞洞庭水 今上岳陽楼
呉楚東南拆 乾坤日夜浮
親朋無一字 老病有弧舟
戒馬関山北 凭軒涕泗流
杜甫
八月湖水平 涵盧混太清
気蒸雲夢澤 波撼岳陽城
欲済無舟楫 端居址経明
坐観垂釣者 徒有羨魚情
孟浩然
蘇軾もきっと岳陽楼から洞庭湖を眺めているに違いない。
洞庭春色賦 |
現在の洞庭湖風景、幽かに君山が望める。
黄州寒食詩巻(1082)
蘇軾が黄州(今の華北)へ流されていた春、
寒食を迎えた時の詩だ。
うら寂しい心境を綴ったものであるが、
疎にして密、緩にして急、な揺ぎ無い筆勢の見事さもさることながら、
深い教養、真摯な道徳感に裏打ちされた奥の深さが滲み出ている傑作である。
後世の書家が挙って絶賛している。
黄州寒食詩巻(1082) |
豊楽亭記
師である欧陽脩の文章を蘇軾が書にし石刻した物である。
「共」の字の横線には苦労した。
何回書いても掛けなくて、遂に、ギブアップした。
羊、狼、馬・・、長峰、中峰、短峰・・いろいろ組み合わせてみたが、
再現できない。
いずれ再挑戦しなければならない一筆だ。
豊楽亭記 |
前赤壁賦巻(1083)
48歳の作、流謫に身の頃の詩書で他に誄の及ぶ事を考慮し人に見せることを拒んだと言う。
文徴明の題記、董基昌の観題があり、
乾隆以下の諸帝の印もあり、貴重な作品として収蔵されてきたのであろう。
現在は台湾の故宮に納められている。
前赤壁賦巻 |
宸奎閣碑(1091)
盧山の高僧が仁宋から賜った詩を宸奎閣に収めたが、
後年、蘇軾が杭州の太子の時に請われて碑文にしたためたものである。
東福寺の開山聖一国師が宋拓を持ち帰っているが、
これも蘇軾の楷書としては最も信ずべきものとされている。
このような経緯で日本へ渡っている古拓は数知れない。
国宝級のものも多々ある。
宸奎閣碑 |
李白仙詩巻(1093)
黄州寒食詩巻と共に蘇軾の名を不動の物にしているのがこの詩巻である
李白の詩二首を書いた物であるが、李太白集には載っていない。
李白の詩であるかどうか疑う面もあるが、
多分、李太白集には洩れていたのであろう。
人生燭上華 光減功妍盡
李白仙詩巻 |
成都西楼帖(1168)
後の南宋時代に成都の知事が蘇軾の書を集めて石刻したもの。
原石は喪失しているが宋時代の拓本が残っている。
こに宋拓が蘇軾の真蹟として伝わる最も信頼出る物なのだそうだ。
成都西楼帖 |
引用文献
講談社刊:古筆から現代書道まで墨美の鑑賞
東京書道研究院刊:書の歴史
芸術新聞社刊:中国書道史
木耳社刊:中国書道史(上卷)(下巻)
二玄社刊:中国法書選
芸術新聞社刊:中国書道史の旅
大修館書店刊:漢字の歴史
平凡社刊:字統
平凡社刊:名筆百選
講談社刊:古代中国
創元社:書道入門
平凡社:書道全集第8巻、第10巻
講談社:現代書道全集
二玄社:書の宇宙
前へ 次へ