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ラスコー記5

成るべく通ったことの無い道を選んだ帰り道で、また、奇麗な街を見付けた。
川幅50Mから100M位の二つの川の交点、
その二つの川に真っ白な石の橋が掛かる、
ここいらの川では河原を余り見掛けない、
川岸一杯まで緑色の水を満々とさせ静かに流れている。
LIMEVILという街だ、名の知られた保養地なのだろう、
緑の木々の間に端正なホテルの屋根が顔を出している。




YHに戻ると、受付けに何時もと違う女性、20歳になってるだろうか、
色の白い目のパッチリした美人、
一寸、肉が多いかな、とても人懐っこい感じで笑顔があどけない。
CADUINのパンフレットの表紙にある回廊の場所を尋ねると、
「付いていらっしゃい」
とばかりに、同じ建物の、違った入れ口に案内された。
「今日はもう閉まっているから、明日観たら? とってもすばらしいわよ」
って言ってる感じだ。

今日はこの辺のお祭りらしい。
広場の中央にある日本の東屋のような四方形のの古めかしい建物に、
土地の人達が集まって飲めや歌えやの大騒ぎだ。



素人らしき楽団が、
ドラム、アルト、オルガン、トランペットの構成で、枯葉、テイクファイヴ、ラメール..等等、
懐かしい曲を演奏している。

YHの中は、例の少年少女達はまだ帰っていないらしく、静まり返っている。
日記付けたり、案内書をチェックしたりして、今日は早寝とするか、とは思ったものの、
広場のバーのおばさんの顔が見たくなって階段を下りる。
入れ違いに、ドヤドヤと彼等が帰ってきた。
みな衣裳の掛かった衣紋掛けをぶらさげ、息を切らしている。

バーに行くと、
何時もの受付けの女性とさっき回廊の入れ口を教えてくれた二人が何か飲んでいる。
「ここへ坐らない?」
と椅子を揃える。
私は何時ものここの地酒の赤ワイン、仲々渋味が良い。
「ここの回廊はとっても有名なのよ、もう一つ、此所には有名なものがあるの、知ってる?」
「いや、知らない」
「此所には、キリストの着た衣が有るの」
「....」
「着たらしい、だけどね、本当のことは判らないの、だから復活祭?になると、
この広場はお参りする人で人で埋まってしまうの」
大体、こんな要旨らしい、そう言われてみると、こんな小さな村なのに、
昼間の広場は、4、50台の車で一杯になってしまう。
識者のみに知られた隠れた名所らしい。
酒の話になる、女の子の飲んでいるのはストローベリーのビールだと。
受付けの女性、彼女は褐色の肌に蒼い眼、いかにもクロマニヨンの末裔のようだ、
彼女も何かのビールらしいもの、
「これは何のビール?」
尋ねると
「匂いを嗅いでみて」
と差し出す。
嗅いだことの有る匂いだが思い出せない、
「何とかよ」
と教えてくれたが、判らない。
「俺は日本酒が大好き」
「エー、アー、サキね、あのホットなのネー、あのスメル!」
と鼻を顰める。
「アルコール度は17.5%位しかないんだよ、俺は毎晩飲んでる」
「エー、毎晩?」
「なんで日本酒知ってるの?」
「以前、タイワンへ行ったことが有るの」
「オー、タイワンね、俺はタイペイに行ったことがあるよ」
「タイペイ? 知らないわ」
どうも、話が合わない、「タイランド」だった。



「ところで、あの少年少女達は何?」
「彼女たちは合唱団よ、今日も??で歌ってきて、さっき帰ったところよ」
やはり、プロだった。
「後で広場で歌ってくれるかもしれないわ」

三人で写真を撮り、送る約束の指切りをする。
受付けの女性が名前と住所を書いてくれた。
名前はLAURENCEとあった。
「何か飲まない? 俺がおごるよ」
「もう、飲み過ぎたわ」
「じゃー俺はもう一杯」
奥のカウンターで
「三人の分は俺が払うから」
席に戻ると、二人とももう目がトロンとしている、相当早くから飲んでいたらしい。

突然、あの歌声が響く、その声の方へ飛んでゆく。
何時の間にか燃え盛っている大きなたき火の前で、紺の上着に白いパンツに揃えた彼等が、
キチンと整列して歌っている。
たき火の反対側はお祭りの連中が聞き入っている。







さっきあれほど騒がしかった連中も美しいハーモニーに神妙に聞き惚れている。
一曲終ると盛大な拍手、拍手が止まらない、アンコールだ、結局、ドイツ民謡を三曲歌う。

歌い終わると、彼等は蜘蛛の子の様に散る。
いきなり宙返りする奴、電話ボックスに駆け込む奴、キャーキャーと普通の子供になる。
この間にも祭りは進行する、焚き火の上の飛び越しが始まった。
日本でもこれと同じ風景を見たことが有る、
老若男女が右から左へ、左から右へ、飛び交う、前後も始まった。
狂的とさへ思えるほど、皆熱中する。
むしろ、これを飛ばないと悪いことが起こる、そんな風だ。

ひとしきりして、またコーラスが始まった。
さっき、バーで一緒に飲んでいて二人も、それぞれ男性に寄添ってうっとりとした顔で聞き入っている。
蜘蛛の子が一糸乱れぬ歌声となる不思議、最後まで聞き惚れる。

バーに戻って、支払おうとすると、要らないというゼスチャー、
「LAURENCEから貰った」
と判るまで時間が掛かった、彼女が私の分まで支払ったらしい。
ここまで来て女性に酒代を支払わせるなんて、日本男児としたことが..
ツベコベ言っても仕方ない、後で日本人形でも送って上げよう。

部屋に戻って広場を見ると、焚き火の残り火だけが紅く光っている。


625
朝食時、引率の先生に
「昨夜、写真を撮ったので、もし送り先が判れば、送ってあげますけど?」
やはり、ドイツの??市の合唱団だった。
彼等の中に、双子の女の子がいる、毎日、衣裳を変えているが、二人とも全く同じ物に変えている。
衣服、イヤリング、髪型、マニキュアの色も同じだ。
その双子の一人が、今朝はシクシクしている、ホームシックだろうか?
もう一人が心配そうに覗き込んでいるのが印象的だ。

CADUIONの回廊、相当に古そうだ、アルルの回廊とはまた趣が異なる。
柱頭の彫り物は聖書の物語を擬しているようだ。
天井にも彫刻が幾つもぶら下がっている。
古い建物に興味がある者にとっては、大変な代物なのだろうが、こちとらには猫に小判。











昨夜話題になったキリストの衣服がガラスの箱に収められている。
真っ白な布の裾に繊細な刺繍、淡い青、赤、茶、黒の模様がほどこされ、気品を感じる。
日本や中国の意匠とはまた趣が異なる、成る程と思わせる代物だ。
所々の風化による傷跡が年代を物語る。
この衣服を纏ったキリストを想像し身震いする。

1800年代の記入がある褐色に変色した写真が何枚も飾って有る。
教会を中心に山高帽の紳士が整列している、相当に謂れの有る教会なのだろう。

広場に並んだ市で、リンゴとフォアグラを仕入れ、LAURENCEにもう一度礼を言ってYHを後にする。
丁度、
広場に入ってきた車から降り立った40歳くらいの品の良い日本人女性が怪訝そうにわたしの顔を見て、
直ぐ眼を伏せた。
「こんな所に日本人が..」
とでも言いたげに、連れの男と回廊の方へ静かに歩き去った。
これが、ブリーブに来てから始めて見る日本人だった。


ドンムを目指す、時間があればサルラも観ておきたい。
谷の向こうにドンムが全貌を現す。



「ドンムを観ないで死ぬのは.....」
とか、言われているらしいが、一方を川に、一方を断崖絶壁にした城塞は見る者を圧する。













百年戦争、宗教戦争の遺跡が残り、中世の大きな石門がシンボルになっている。
観光客が多すぎる、
中世の匂いのする裏町も人でいっぱいだ。







ずらりと並んだお土産物屋を冷やかす、木の細工品が多い。
此所で買った木の柄の折り込みナイフは絶品だ。


ブリーブの街に入る前にガソリンを満タンにして、レンタカーを返す。
10%引きと言う。
「確か25%引きと聞いていたが」
と粘る、紹介元のコルマールのユーロカーに電話を入れてもらって納得、
休日料金で安くなっているからとのことだ。
5日間で1200F、日本では考えられない。
これには多少仕組みがある、コルマールの友人の会社はユーロカーの上顧客、
上顧客には特別割引がある、これはヨーロッパ全土のユーロカーに通用する。
レンタカーを使う時はなるべくコネを利用することだ、思わぬ割引が有る。

ユーロパスは便利なようで不便だ、熟慮して決める必要が有る。
いろんな種類のパスがある、勿論値段が違う。
私が買ったのは、2ヶ月間有効、7回の使用可能、
ヨーロッパ5カ国、フランス、イタリア、ドイツ、スペイン、スイス、
の何処へ行ってもよい、座席指定、寝台車で無ければ予約無しでも自由、
何処で乗っても何処で下りても構わない、
という奴だ。
結局、今回はフランスとイタリアだけ、スイスは汽車でかすっただけ、
計算はしてないが、
普通に切符を買ったのと変わらないかもしれない。
ユーロパスのメリットを不消化な感じだ。

要所要所の、YH、ホテル、列車は日本で予約してきたが、
YH以外は予約不要のようだ、何処にでも予約の窓口がある。
ガイドブックは、
例えば、「フランス」よりも「アルザス」「プロヴァンス」の方が当然ながらキメが細かい。
但し荷物が増える。


予約済みの駅前のホテルへチェックイン。
いよいよブリーブともお別れだ、洞窟も半分も観ていない。
心残りの街も沢山有るが、まあ、旅とはこんなものだろう。



 

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