璃江下りの終点 陽朔紀行
案内書に載っていたホテルだが、仲々整ったホテルだ。
背景も良い。
アプローチから振り返ると、
一番安い部屋、100元を二泊170元に交渉。
部屋もまあまあ、昨夜の桂林の部屋と変わらない、庭の広さ、奇麗さは断然こちらが優る。
クリントンや周恩来も泊まった事があるらしく、写真がベタベタ貼ってある。
腹ごしらいにホテルの前の西洋風食堂でスパゲッティをつまみにビールを飲んでると、
真っ黒に日焼けした30がらみの女が話し掛けてきた。
例によって、
「あんた、何処の国の人?」
から始って、カタコトの話、と、ノートを取り出した。
思わず覗き込むと、いろんな国の言葉でメモが書いてある、日本語も2、3有る。
「月亮山、菩薩洞、田舎道のサイクリング、手ずくり食事、とても楽しかった」
云々、このおばさんにガイドしてもらった感想だ。
魅力有るが一日100元のガイド料、相場としては一寸高い気がする。
「5時頃又来るよ、その時まで決めるから..」
離れた席で話し込んでいた二人連れの一人が話し掛けてきた、日本人だ。
「日本人は道義が無いと言うんですよ」
「ハァー?」
「さっき知り合った韓国人の彼が言うんです」
と連れを指差す。
「○○事件の事、知ってます?日本人としてはっきりさせたいんです」
何か一人で日本を背負っているように意気込んでる。
「ハァー?...」
と言いかけると彼はあたふたと席に戻る。
相手は沈着冷静そうな男だ。
彼には彼を説得出来ないだろう、が、応援する気にもなれない。
一休みして、ホテルを出る。
玄関から門まで池を挟んだアプローチ、周囲の植木の手入れも行き届いていて心地よい。
相前後した日本人女性の二人連れにさっきのおばさんが襲い掛かる。
二人も例のノートを覗き込んでる。 興味が湧いたようだ。
「三人で幾ら」
おばさんに中国語で聞いて見た。
「200元でいいよ、あんた、二人に交渉して見てよ」
その旨、二人に告げると、
「面白そう! 行ってみましょうか!」
明朝10時、おばさんのガイドで陽朔近郊のサイクリング決行と決まる。
「有難う」
おばさんが私に礼を言う。
陽朔の街をぶらつく。
底辺よりも高さの方が高い茸が生えているような
100m位の小山が彼方此方にニョキニョキ飛び出している。
その山の一つをぐるりと廻って見た。
漓江に面している側に出ると公園になっていて入園料を取られる。
戻るのも癪で入園する。
眼下に漓江を眺める景色は抜群、帯と言う字の草書が大きく岩肌に彫って有る、
有名人の書らしい。
入ったのが5時半、閉門が6時、若い男女が来て何か話し掛けてきた。
良く聞いてみると、
「時間が少ないので私が案内します」
と言ってるようだ。
若い男の方が、先導して一つ一つ見所を案内してくれる。
といっても、半分は、私の余り興味の無い玉石彫刻の山水、これがここの見所らしい。
門を出ると、後ろからさっきの男が駆けてきて私に小銭を手渡す。
時間が少なかったので返金かな、と思ったが、
「お釣です」
そう言えば、お釣を貰うのを忘れていた。 それにしても悪い気はしない。
飯を炊いて食べてメールが打てるところを探しに出る。
一軒目は日本語が出きない。 二軒目で受信だけが出来た。
翌朝は生憎の雨、多分サイクリングは無理だろうが約束だからと、
少し遅れてつくと、二人はもう来てる。
おばさんが合羽を差し出す。 やる気らしい。
合羽来て自転車に乗るのは中学生以来だろう。
舗装された道を少し走って田舎道に入る。
自転車が一台通れる狭い、砂利と泥濘が交互に現れる。
静かな田舎道、長閑な田舎の風景だが、止る事も思うようにならない。
ズボンもずぶ濡れ、やがて着いたのは彼女の家、子供が二人出てきた。
彼女は小さな油揚げのようなものに、餃子の中身のような物を詰め出した。
仲々器用に詰める。
胸に看板をぶら下げた若い男が顔を出す。
鍾乳洞の案内人、公務員だ。流暢な英語を話す。
歩いて2、3分の菩薩洞へ案内される。
人がやっと通れるほどの小さな入口、普通の子供だましのような穴蔵だ、
と思いながら少し奥へ入ると、凄い鍾乳洞だ。
小さな規模だが、自然のままの鍾乳洞、殆ど人の手が加わっていない。
暗い照明、殆どガイド君の懐中電灯が頼りだ。
複雑に入り組んだ迷路をまさぐり進む。
腰ほどの高さの穴をくぐったり、仮設に近い梯子、鎖で垂直に登ったり下りたり、
足を踏み外すとあの世行きだ。
彼女達も悪戦苦闘、ズボンもシャツも泥だらけ、時々、彼女達の悲鳴が洞窟にこだまする。
ガイドのお兄ちゃんが靴を脱げと言う。
地底湖だ、冷たい水に膝まで浸かりボチャボチャと進む、気持ちが良い。
これほど自然のままの鍾乳洞は初めてだ、今迄経験した鍾乳洞の中で最高だろう。
やがてあの極彩色の照明にブチ壊されてしまうに違いないと思うと残念だ。
彼女の家に戻ると、食事が出来ている。
フライパンにさっき詰めていた餃子のようなものと青菜、
人参、茸、がブツブツと煮上がっている。
油ッ気も少ない、ピーナツ油と味の素と、何とかで味付け。
仲々珍味で美味しい、名前は忘れたがこの辺の郷土料理だそうだ。
暫く休んで、また、自転車、雨が上がって快適だ。
見上げると、そそり立った山の片側にぽっかりと大きいな穴が開いていて向こうの空が見える。
月亮山だ。
近いようで登ってみると、仲々辿りつかない、長い階段を、喘ぎ喘ぎ登り切る。
直径が50m位はあるだろう、中央に立つと丸い岩の天井、自然の造った美形だ。
写真を撮ろうとしても余りに大きすぎて全部が入らない。
山頂からの景色も抜群、ゆっくりと腰を下ろす。
入口まで下りるとおばさんが、写真の撮り場所を教えてくれる。
成る程、見事な月の輪の全景が見える。