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上高地 秋 上高地へ向かう途中の道之駅。 谷の両岸から紅葉が迫る。 大正池から歩きたかったが... 懐かしい帝国ホテルの前を通り過ぎる。 バスを降りると目の前に穂高の稜線が飛び込んで来る。 直ぐにでも雲に覆われそうだ。 慌ててシャッターを切る。 川添を歩く、いい気分だ。 ジャンダルムがちらっと顔を出した。 あの絶壁をよじ上ったのは云十年前だ。 同行したH君は数年前に亡くなった。 私の二倍くらいの大きな図体の持ち主だったのに。 人生は判らない。 豪快な男だった。 云十年前、 夜行で来た私と前日に来てキャンプを張っていた彼と涸沢で落ち合った。 彼は冷たい水でビール缶を冷やして待っていてくれた。 当時はビール缶なんて山小屋でも売ってない、自分で下界から持って行くしかない。 その貴重なビールの美味しかったこと! 一休みしてから二人で奥穂小屋迄登る。 考えてみたら夜行で松本駅に朝着いて、その足で奥穂小屋迄登ってしまったのだ。 今では考えも及ばない。 河童橋が見えて来た。 何時の間にか稜線が雲に覆われた。 秘密の場所でもないが、 河童橋からいかにも上高地と彷彿させる林の中を一寸行った左側、 更に一寸した林を通り抜けたところにキャンプ場がある。 其処の梓川辺からは穂高全景が広がるのだ。 雲が切れて来た、絶景だ。 あの稜線を右端から左端迄走破したとはとても信じられない。 稜線の中央、あのトーチかの様にそそり立つ尾根がジャンダルムだ。 近付くとこんな処だ。 (wikipediaより引用) 上の方に人が見える。 奥穂高岳から西穂高岳へ、ロバの耳、馬ノ背と呼ばれる急峻な痩せ尾根が続く。 更にジャンダルム、天狗の頭、間の岳、独標、 尾根道はガラ場と言って浮き石の連続だ、道筋を一歩間違うとガラガラと奈落の底へ落ちて行く。 そう言えば、私が足を滑らしかけた時、H君が大きな手で私を支えてくれた。 証拠写真が有った。 写真中央の左側、やや下に立っているのが私だ。 川上の方から見た河童橋。 未練たらしく辺りを彷徊する。 二度と景色を眺めることがあるだろうか。 もう一度、稜線を舐めるように眺め廻して、 上高地とおさらばだ。 完 |