青荷温泉紀行(二)

何よりも先に、野天風呂に直行する。



脱衣室も露天のようなものだ。
震えで足元がおぼつかない。
「寒いところで急に温泉に入ると心臓麻痺を起こす」
と脅かされているので飛び込むわけにはゆかない。
慎重に、そゆりそゆりと入る。



寒い!
ぬるい、ぬる燗の温度だ。
どんどん体温が下がってゆく気配、温泉を味合う気分ではない。
しかし、震えながらもご満悦なのだ。
ゆったりと雪の温泉に浸かったという満悦感ではない。
青荷へ来て青荷温泉へ浸かったという満足感なのだ。



日暮れが間近い、既にランプが灯っている。
菰の被った桶風呂には入りそびれた、兎も角、寒いのだ。
後で聞くと桶風呂の方が若干温度が高いとのことだった。





かまくらも灯った。
こんな雪景色が見たかったのだ。

夕食前にもう一つ内湯をやっつけた。
夕闇がせまる。




これぞ牡丹雪、今迄に見た事の無い嵩、粒の大きさだ。






夕膳。
大きな火鉢に山女が並ぶ。
「お一人一本ずつですよ、」と係員から声が掛かる。



こんがりと焦げた山女にがぶりつく。
熱燗の地酒に良く合う。
山女が地酒に合うのか、地酒が山女に合うのか。



山菜を主体にした料理、珍しい茸が珍味だ。
この辺りでは茸と言われるあらゆる種類が採れるのだそうだ。
中でも「さもだし」「あみこだし」と言うのは初めて、美味しい。
どちらも黒い茸だ。



ぶら下がっているランプをつくづくと眺める。
昔、「ランプ引き寄せ・・・・・」とかの唄が流行ったことがあるが、
昨今、ランプの宿は珍しい。
どのランプもピカピカに光っている。
毎日毎日磨くのだそうだ。

80歳くらいのご婦人、お一人で来られて2連泊だとか。
私もあやかりたい。

さあ、次の野天風呂、
名前は「滝見の湯」だが滝は雪に埋もれていて流れ落ちる景色は見えない。



積もったばかりの雪を素足で踏んで湯に浸かる。
幾分寒さに慣れたせいか良い気分だ、甘露甘露。
生きていて良かった。



流れ落ちる湯の音が心地よい。









それにしてもランプが多い。
その一つ一つのランプに宿の思いが篭っている。
ランプもそうだが、廊下や部屋の隅々まで清潔で気持ちよい。
宿の主人?女将さん?も人を逸らさない。
昭和4年開業だそうだ。



ストーブの火が郷愁を呼ぶ。



昔見慣れたスト−ブも懐かしい。



電気も無い、テレビも無い、このランプの明かりでは本も読めない。
温泉に入れば、後は、飲んで寝るしか無い。
その青森の地酒がすこぶる美味しいのだ。

続く



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