長門記9 長州峡から瑠璃光寺五重塔
長州峡を散策。
一路山口へ向かう。
瑠璃光寺五重塔は凄い。
数少ない大内文化の遺産が逆臣陶氏の菩提寺に燦然と残るのは皮肉だ。
桧皮葺の屋根の柔らかい反りが辺りの緑、紅葉に見事に調和している。
今までに見たどの五重塔よりも優雅だ。 国宝と聞いて納得が行く。
もう一つが常光寺の雪舟庭園、元大内氏の別邸で雪舟の造営とされている。
竜安寺などの石庭に較べ大自然を取り入れた大胆素朴な石組み、
閑寂の中に力強さを感じる。
この寺の建立と雪舟の山口滞在の時期が一致しており、
雪舟の造営であることはほぼ間違いないらしい。
そう言われると、雪舟の画風がうかがわれるような気もする。
心の字を摸した池、鶏頭滝との配置も風韻に富む。
紅葉を掻き分けて庭を一巡りする。
庭の眺めは四季を問わないが新緑の頃が最も良しとされている。
通り道とは言え、Nさんのお陰で大内遺産のめぼしい二つを覗けたのは、
勿怪の幸いだった。
小郡駅でNさんと別れ、Kさんと帰路につく。
残された生涯の内、Nさんとはあと何度会えるだろうか。
そんな感傷を抱きながらのコップ酒は心なしかほろ苦い。
(長門記完)