長門記4

ー金子みすず・こころのふるさとー

萩から西へ真っ直ぐ40分も走り長門、仙崎を通り越して、急勾配の橋を渡ると青海島だ。
青海島からの夕焼けを撮りたくて萩を早目に出立つしたのだ。
宿へ到着予定を知らせるついでに、夕焼けの見所を尋ねてみた。
「宿の手前の十六羅漢が絶好」
との案内に基づいて車を降り、山道を登って半島の裏側に出ると、十六羅漢の名の通り、
羅漢の如き奇岩が海中から聳え立っている。
余りの好天気なのか裏日本の荒々しさが無い。











丁度今から夕日が沈む時刻、しかし、夕日の沈む方向は西側の半島に遮られてしまう。

宿に着くと、親父が、奇岩の間に沈まとする夕焼けの見事な写真を示す。
「やはり、夕焼けは夏場です」
夏冬では太陽の落ちる角度が随分とちがうのだ。

仙崎湾の漁火を眺めながら、採り立ての魚をつまみの熱燗は旅冥利に尽きる。

 


翌朝、 ずらりと並び舳先を擦り合う観光船の一つに乗り込む。
約二時間半程の青海島一周の船が動き出すと、茶髪の若いおねえちゃんガイドが元気溌剌に、



トリデの様に複雑な入り江、島々を一つ一つ丁寧に案内する。
聞いていると、平家の落人の話が多い、それも皆非業な最後の場面ばかりだ。

日本海側に出ると様相が一変する。
直立する岩壁に刻み込まれた断層はあたかも自然の造り出す抽象画の如きだ。
ニョキリと突出す岩柱の間を練り、時には洞窟を潜って船は進む。
















船を下りて、仙崎の街並みの散策、街の中央の仙崎駅、
これが金子みすず記念館になっている。




              お魚       金子みすず          

海の魚はかわいそう

お米は人に作られる
牛は牧場で飼われてる
鯛もお池で麩を貰う

けれども海のお魚は
なんにも世話にならないし
いたづら一つしないのに
かうして私に食べられる

ほんとに魚はかわいそう


西条八十を唸らせた天才少女、詩作と家業の板挟みで26歳の若さで自らの命を絶った.。
忘れ去れ掛けていたこの女流詩人が半世紀を経て再び脚光を浴び出したのはまだ日が浅い。
身を凍らせるほどの優しさが、けたたましい今の世の人々の琴線を擽ったのだろう。

仙崎駅から直角に中央通り、捕鯨と北前船で栄えた港町も今は小さく縮こまって人も疎らだ。



かってはこの通りの彼方此方から勇ましい物売りの掛け声が千切れ飛んだのであろう、
店を閉ざした空き家が歯抜けのように立ち並ぶ。
みすずが街中を詠った詩が、その詩の詠われた現場に可愛く掲げられている。

 

            郵便局の椿     金子みすず        

あかい椿が咲いていた
郵便局がなつかしい

いつもすがって雲を見た
黒い御門がなつかしい

小さな白い前かけに
赤い椿をひろっては
郵便さんに笑われた
いつかあの日がなつかしい

あかい椿は伐られたし
黒い御門もこわされて

ペンキの匂うあたらしい
郵便局がたちました


続く








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