近江記13
洞寿院

今日の最初の訪問先の洞寿院の世話人へ電話を入れる。
「ご本尊は秘仏で拝観できませんよ。
それで良かったら、私達も今から行くところですから、どうぞお出で下さい」

昨日の全長寺から帰った道を少し戻って途中からほぼ直角に東に向う。
左右の山が急に迫り出してくる、まさしく谷だ。
2,3km行った辺りの大きな部落を過ぎ、今度はほぼ真っ直ぐに北に向う。
谷底の道だが快適な舗装道路だ。
もう部落は無いだろうと思っているとやや開けた平地があり部落があった。
また谷底の道になる。
そしてまたポツリと村落がある。
中年の男が漕ぐ自転車を追い越す。
暫く待ってその男に道を尋ねる。
「もう○km程行くと、右左に分かれる道に出るから、
右に行かないで左へ真っ直ぐ行くと洞寿院に突き当たるよ」

今迄のお寺を想像していたが想定外だ。
まず、入れ口の杉の太さにおののく。
こんな山奥にこんな立派なお寺がある。







しかも、無住なのだ。
室町初期に開かれた曹洞宗の名刹である。





人の気配は有るが人は見当たらない。
声を掛けたが返事が無い、勝手に広い本堂に上がり込む。



人声がして、奥のほうから掃除用具を持った中年の夫婦連れが出て来た。
「先程電話した者ですが」
「はいはい、どうぞどうぞ、どちらからお越しで」
「静岡の方です」
「ほうほう、それはそれは遠いいところを・・・」
写真の許可を請うと、
「正面のご本尊さんはご遠慮下さい」

こちらのご夫婦は世話人ではあるが案内では無くて管理専門のようだ。
何か説明して頂ける様子も無い。



国の重文であるご本尊は厨子の奥におさまってる様だ。



裏へ廻ると、いいお顔のお像が幾つも並んでいる。
何気なく並んでいるが始めの二つは相当な代物と見た。





案内パンフレットにも何の記載が無いが勿体無い事だ。








ご本尊の納まる厨子の両側にも小振りだが古い仏像が並んでいる。
どの一つを取り上げても何か曰く謂れが有りそうだ。





世話人さんと少し立ち話をする。
「こんな大きなお寺のお世話は大変ですね」
「此処は住職が居らんのです、ですから、部落の者が一年交代でこうしてお守りしてるのです」
「・・・」
「これだけ広いと掃除するだけでも大変ですわ、今度またご供養が有るので建替えもせにゃぁならんし・・」
「・・・」
「こんな物も山へ行って採って来なければならんでのう・・」
胸一杯に抱えているのは真っ青な榊の枝だ。
「もう部落も年寄りばっかだわ」
と照れ笑いをされる、将来への不安が滲み出ている。
ご夫婦が間髪を入れずにお話下さる。
夫婦漫才のように息が合っている。







さっき追い越した自転車の男性が来て、
世話人さんご夫婦と話し始めた。
ご供養の打ち合わせらしい。

高い天井の壁に二つの駕籠が掛かっている。
お大名が使ったような立派な駕籠だ。



「住職の出入りの時に使ったもの」
だろうとの事だ。
このお寺の本堂の造りは、永平寺の一番奥のお堂の造りとそっくりとか、由緒あるお寺なのだ。



「葵の紋が付いてる様なお寺はこの辺りのは無いわね、うん」
これだけのお寺を必死に守っている檀家さん達の誇りなのだろう。









何かに後ろ髪を引かれる様に寺を後にする。
今回の湖北観音巡りは早くから準備を始めていたのだが、
余りに多くて焦点が絞り切れなかった。
渡岸寺以外、殆ど予備知識は無く、
何処へ行って何を見ようか、何を知ろうかの準備も無く、
予約を取るだけで精一杯、殆どがぶっつけ本番だ。
案の定、
此処洞寿院には、
龍の玉と言う寺宝とか、塩水の湧き出ると言う塩泉も見逃している。

山道を下ると驚いたことに、
ボリュームを一杯に上げた選挙カーと行き交う。
 
続く

 

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