第一番  霊山寺

 

仏教の五穀の法則に従って、右回りの八十八箇所巡りが始まる。
ここで遍路姿を纏い遍路用品を準備、空海の弟子になって旅立つのだ。
殆どの人が白装束に身を包むのだが、私は照れ臭くて止めた。
菅笠も暑苦しそうなので止めた。
最低の必需品を整える。
標準的な出で立ち姿のマネキンが微笑んでいる。



金剛杖、
中でもなくてはならないのが金剛杖、これは空海の分身なのだ。
同行二人、空海さんとご一緒する、空海が導いてくれるのだ。
四角の杖の四面に般若心経が書かれている。
昔は遍路途中で行き倒れれになるとこの杖が墓標となった。
成る程、杖の頭部は卒塔婆と同じ切り込みが有る。
ポンと杖を立てただけで心が引き締まる、不思議なものだ。

納札、
自分の名前と住所を書き込み、巡礼の証として本堂と太子堂に収める。
昔は木片に書いて釘で打ち込んだ、「何番を打つ」はこれに由来している。

納経帳、
各札所で参拝の証として朱印を押して戴く。
八十八箇所と高野山、全てを参拝した証を、棺桶に一緒に入れるのだそうだ。

その他、線香、蝋燭がお参りに不可欠。
誰かが鳴らした鈴の音に見せられて持鈴も求める。
都合7000円余り。

子燕たちがケタタマシク出迎える。



門前でドギマギする。
事前に予読したガイドブックのお寺での巡拝作法等を頭に入れたつもりだが、
いざ、門前に立つとすっかり放念している。



連れに従う、まず門前で本堂に向かい一礼するのだ。
次いで、水屋で口を漱ぎ手を洗う。
鐘楼で鐘を突く、お祈りする前に突かねばならないそうだ。
参拝後に撞くと、出鐘といって、もう一度お参りをし直さなければならないのだ。
本堂で納札を納め、灯明と線香をあげ、鰐口を鳴らし、お賽銭を投げ入れ合掌する。

迂闊な事に、何をお祈りしたら良いか判らない。
「よろしく」
とだけ呟く。
連れ達はお経を唱え出した。

「待てよ」
と考え込む。
「俺は何しに来たのだろう」

人生の岐路に立っているわけでもない。
ああなりたい、こうなりたいと言った願いも無い。
無信心、無信仰の私には、何かを祈るのも「苦しい時の神頼み」の域を脱していない。
例えば長寿、日頃の不摂生からしておこがましい事だ。
といって、
「人生とは?」
「人間とは?」
を捜し求める巡礼にしては動機が不順だ。

四国八十八ヶ所巡りを誘われた時、それが車での巡礼と聞いてその気になった。
何時の日か、歩いて廻りたいとの微かな希望が有ったが、未だ、その機には熟していない。
気の知れた仲間とのお寺巡りも一興だろう、四国の歴史や風土に触れてみたい、
要するに物見遊山気分なのだ。
以前に見聞きした、
「四国八十八ヶ所巡りをすると心が洗われる」
にも魅力があったのは確かだ。

「これまでの人生は生きてきた人生、これからは死に向かう人生、
その折り返し点にしたいのだ」
と、友は言う。

空海が遍歴した遺跡を辿って修行僧達が霊場を巡拝したのが始まりなのであろうが、
空海が故郷四国の民の生活の安定を望んで、八十八ヶ所巡りを設計した、
或いは、何等かの関係を持ったとしたら、彼の観光開発能力は非凡だ。
今昔物語や保元物語にも四国遍路のことが伝えられており、
平安末期から南北朝の頃にかけて日本各地から四国巡礼が有ったらしい。
一般的に成ったのは室町、江戸時代としても、
何百年も固定客の確保したのだ、年間20万とも30万とも。
八十八ヶ所巡りをはじめて判ったが、何処か一つでも抜かすと気持ちが悪い。
巡り出した人は特別の事情を除き、
概ね、八十八ヶ所のお寺で納経代を払いお賽銭を授ける。
宿坊へも宿代を落とす。
お寺の近傍の御土産屋、民宿、宿屋、食堂は一様に何等かの恩恵にあずかる。

八十八ヶ所巡りを始めた途端にこんな考えが頭を過るのだから、
覚悟の程も知れている。
まあ、四国の風物、風景にでも触れる事が出来ればそれで満足だ。













さて、霊山寺、山門を潜ると右側に「縁結び観音」
仕事、健康、恋愛、幸福・・
様々なご利益が有る。
手を合わせるだけでなく水でお清めしてからお祈りすると功徳が大きいとか。

長宗我部元親の兵火で残ったのは多宝塔だけ、多くの建物は全て明治に再建された。
石橋の上をトコトコと歩くと袖を引かれる。



「橋の上で杖を突いては駄目です、端の下で大師が修行されているのです」
早速、作法に反してしまった。

山門を出ると、又、袖を引かれる、
山門を出たら振り返ってする「お礼」の一礼を忘れたのだ。

兎も角、賽は投げられた。

続く
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