第四十三番  明石寺



先手観音菩薩が美しい乙女に姿を変えて、
真夜中に石を運ぶ願掛けをしていると、
いつの間にか夜が明け、
女神は慌てて消え去った、
そんな伝説が残る明石寺。











此処には源頼朝ゆかりの一堂がある。
幼い頼朝の命を救った池の禅尼の菩提を弔ったのだ。



さあ、これで今回予定の43箇所が全て完了だ。
始めから覚悟の上とは言え、
残念ながら、悟った、とは程遠いい。
幾らかの清清しさは残ったような気もしないではない。


余談。
或る札所の納経所、
団体ともぶつかり列が出来ている。
住職の前に堆く積まれた納経帳をみて思わず口に出た、
「一回300円、一日100人として、月に幾らになるのかな?」
住職の目が光った。
「以前は200円だった」
やや間を置いて、
「お金じゃないよ、そんな気持ちじゃ霊験なんか授からないっぞ」
暫くお説教が続く。
記帳してやってんだ、そんな横柄な口振り態度だ。
少し、皮肉の一つも言ってやりたくなったがぐっと堪える。
もし、もっと怒らせてしまって、
「お前の納経は書いてやらん」
とでも言い出したら大変だ。
88箇所の一つでも欠けたら気持ちが悪いし納経帳の価値が無くなる。
彼もそれを十分承知して言いたいことを言ってる、
そんな気がすると、益々血が上ってきたが
ぐーっと耐える。
そんな時、
無意識だと思うが一人の男が脇から納経帳を差し出した。
「割り込みはいかん、そんな心掛けだから・・・」
矛先がそっちに向いた。
男は恐縮している。
20代後半位の女性の番になった。
「あんたは家庭持ちかい」
「ハイ」
女は小さく答える。
「旦那とはうまくいってるかい」
突然の唐突な質問に女は辺りを気にする。
「まあ」
とか答えたようだった。
それから、トウトウと夫婦の有り方について説教が始まる。
時々、納経の手が止まり待ち人を見廻す。
内心苛々がつのって来ている待ち人たちの心境に全く無頓着だ。
記帳を終えたくだんの女性が300円渡そうとすると、
住職は、
「其処へ置け」
と顎を突き出した。

その寺を出て1時間あまり経っただろうか、
連れの一人が、
「あの生臭!」
と呟く、まだ治まっていないのだ。
今回の遍路旅の終わりに近い、
折角和らいできた気分に水を注された。
返す返すも残念だ。


これも或る納経所、
大きな風呂敷堤を抱えた2、3人の男、
風呂敷包みを広げると何十冊もの納経帳等、
記帳を終えるとそそくさと消えて行く。
お参りしている様子が無い。
これが代参屋と後から聞いた。
いろいろな事情で遍路には出られない、
しかし、祈願したり供養したりしたい、
そんな人達の為に代参するのだ。
当初は純粋な気持ちで代参したのだろうが、
昨今、これを商売にする連中が居るのだ。
まとめて記帳したものを、
あたかも代参した如くに売り付けるのだ。

最後に愚痴が出た。


最近、松山自動車道がこの辺りまで伸びて来た。
出来たばかりの高速道路なので、
カーナビの地図には入っていない。
車は地図に無い山中を飛ぶように走る。
誰かが、
「空中ドライブ」
と言った。


四国遍路前半 完
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