客家2  再びアモイ

10/19







起き抜けに、宿の裏にある小さな丘に上がる。
頂上の東屋で老人が読書に耽っている。
話掛けて来た最初の言葉は、
「朝飯は済んだか?」
続いて、
「何処から来た?」
「何時来た?」
「何時まで居る?」
後は良く聞き取れない。
読んでる本は毛語録。
やおら紙の上に自分の名前と年齢を書いた、80歳。



懐から饅頭を取り出し「食え」、続いてポリ瓶を突き出し「飲め」だ。


今日の圧巻は四階建円楼、円楼では最大規模。
直径約100m、面積6000平方米余、384部屋、
今でも54家族、700余人が生活している。















建屋は4層形式、
中心が祭壇のある儀式の場所、3層は客人用、2層は教場、
一番外側の1層が四階の円楼、一階が炊事場、二階が倉庫、三,四階が住居。

階段を登る、一階毎に別世界に登って行く感じだ。
この落ち着きと安らぎは何処から来るのだろう。
「時間を超える」
と言う言葉はこんな時の為に有るのでは、と悦に入る。
Aのお父さんも伯父さんも唸り声を発する。
現代っ子の代表?のAですらも、しばし、佇んでいる。



この感激は何だろう?
傷だらけの総身、未だビクともしない骨組みで、
原野の中に毅然と、悠然と佇む雄姿への拍手喝采だろうか、
長年の大自然との闘いに耐え抜き、いや、
大自然と調和を保ち続けてきた客人達への挽歌だろうか、
数々の人物、人材を世界に送り出してきた事への賛歌だろうか、





コトリともしない静寂の中、耳元で微かな音が聞こえる。
「錯覚かな?」
と耳を澄ます。
前方に広がる水田の稲穂の触れ合い?
裏山に迫る山の音?
建物の間を縫う風の音?
いや、
此処で生きて死んで行った人々の喜怒哀楽の雄叫び?
何かが耳元から離れない。

何百年前と同じ様に、同じ井戸から水を汲み上げ天秤棒を担ぐ女達、



あどけない笑顔の客人の末裔達、
人間の故里を垣間見たのかも知れない。






自家用車の威力に、簡さんの賢明なサービスが加わり、
普通の観光客ではとても辿り付けない所へ連れて行った呉れる。
途中で車から降りて歩かなければならない悪路を行き着いた集落、
山間の山間、此処の土楼も圧巻だ。
谷あいの山道を息せいて登ると眼下に集落の全貌がおさまる。











  












観光客も物珍しいのだろう、子供達が寄って来た。
みんな人懐っこい。



伯父さん担ぎ上げた大きな三脚をもぎ取って山を降りる子も居る。
何処かへ持ち去られるのではと始めはハラハラしたが、全く心配無用、
身に着けている物は粗末だが本当の本当の子供達だ。
デジカメの画像に見入る横顔は天使に近い。




1419年に造られた土楼、







流石に現在の住人は只の一家族だけだそうだが、
約600年前、日本で言うと室町時代、
神社仏閣なら兎も角、普通の民家だ。
荒れ方も凄いが其処此処に人の匂い、歴史の匂いがする。


懐かしい声、物売りの声が聞こえて天秤棒を担いだ男が入ってくる。
あの映画「初恋の来た道」に出てきた壊れた茶碗を修理した老人と同じ様な箱をぶら下げている。

 

映画で見たのと同じ様に、どっかりと腰を下ろす。
箱を置き、蓋を開け修理用具を取り出すと、
鍋を持ってきた老人と静かに話しながら修理に取りか掛かる、
全く映画と同じだ。
Aが、
「買った方がやすいのにねー」
と囁く。


10/20
今日の土楼は観光化が進み、土楼も辺りも整備が行き届いていて余り魅力が無い。



旅行シーズンになるとこの広場が観光バスで一杯になる。

温泉が有ると聞いて、是非、行こうと言う事になる。
ところが、建物は立派だが通された風呂場は
日本で言う普通の家の風呂場と同じだ。
浴槽、シャワー、ポリの桶と椅子、殺風景この上ない。
山、川の立地条件に恵まれているのに、通りに面している。
経営者は日本の温泉を研究すると良い、とつくづく思う。
しかし、風呂上りのビールは旨い。

夜、我々を自宅に招待、
奥さん、ご両親の心からの歓待を受ける。

 

三歳の可愛い子供さん、
土産のオモチャのピアノを最後まで弄っていた。



10/21
簡さんがアモイのまで自家用車で送ってくれる。
彼は、運転しながら宿の手配、明日の飛行機の手配を済ませる。
有能な彼は、目下、家を新築中だそうだ。
この四日間で一か月分以上の収入を得ている。
機転が利いて、話題も多く、顔も広い、益々商売繁盛間違い無しだ。


バナナの並木通り、おばさん達が、
走っている車に向かい鈴なりのバナナを両手に掲げる。
簡さんが値切って値切って買った一房を皆でほうばる。
30個位有るだろうか、3元で売ったおばさんもブツブツ言っていた。

夜、タクシーで、
「アモイで一番美味しい海鮮料理店」
を探し当てる。

 





 



新鮮な海鮮料理でアモイでの最後の夜を惜しむ。
伊勢海老の刺身と蟹が美味しい。

 

最後の最後は、露店で駄目押しの一杯だ。

続く

 

  

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