明日は車をチャーターしたい。
旅行社に電話したら、あのおばさんは出掛けているようだ、電話に出た男が、
「其処で待ってて下さい」と言ってる?らしい。
暫くすると、男が現れた、
おばさんから私の事を聞いているらしいが、英語が全く話せない。
カタコトの中国語と筆談で、兎も角、明日の車チャーターの話が決まった。
朝8時出発、6個所観て、夕方7時ホテル帰着、2名で500元、車種はギャラン1800cc。
「現金が無い」
と言ったら、
「隣が銀行」だった。
たんまり両替、これでお金の心配は無い。

一休みしたらアキがやって来て 昨日の生ビール屋へ直行。
中国の田舎町で生ビールが飲めるところは、そうやたらとない、極めて貴重なのだ。
天真爛漫なアキだが、彼なりに悩みがある。
一人息子なのに家業は継がない、といって、将来どうするか決まってない、親に心配掛けたくない。
日本に居る恋人のことも心配、どれもこれも19歳の青年の当然の悩みだ。
親子以上の歳の差があるのに、こんな話になると、歳を忘れての同級生、
ビールを何倍飲んだか忘れるくらい、散々話し込む。
「写真を撮りながら世界中を歩く、だから、日本に帰ったら写真の学校に行きます」
彼の腹は決まったようだ。


209
朝8時過ぎても車が来ない、やっと電話が通じる、
「寝坊したようです」
40分も遅れてギャランがやって来た、全く悪びれた様子も無い、当然ですって顔だ。 
それから悠々とガソリン入れて、9時に出発。
走り出したら、速い速い、何台も車を追い越して、一時間でモウカイ(「孟子の孟に力」海)に着く。

奇妙な形の景真八角堂、
高さ20メートル、31面32角の複雑な形、魔除けの鏡が四方に嵌め込んである。



タイ族仏教建築の中でも最高級のもので国の重要文化財だそうだ。 
折りから、境内の一角が着飾った人々で賑ぎ合っている、人々の輪の中心で若い女が歌っている。



と、周囲の人垣を分けて女の前に近づいた男がその女にお金を手渡す、裸のお金だ。
周囲からドッと歓声が上がる、どうやら結婚式の御祝儀だ。
これが次々に続く、恰幅の言い中年の男が渡すと歓声はひときわ大きい。
与えているのは親類縁者なのだろう。
これだと、**おじさんは**円出した、++おじさんは++円だったというのが、
取り囲んでいる皆に丸見えだ、それがリーゾナブル かどうかで、歓声の大きさが違うようだ。 
或る意味でフェアーであり、合理的でもある。

傍らに、
何人かの幼児が上から下までこれ以上飾れないほどの正装をして何枚も布団を重ねた上に鎮座している。



恰も高僧のようにだ。 
これも、この辺りの結婚式の一つの決まり事なのだろう。
タイ族の結婚式進行中の一場面に出っくわしたのだ、
一部始終を見たかったのだが..

村を一廻りする、豚、鶏、七面鳥が悠々と散歩している。
今日は特別な日なのだろうか、行き合うの女性は、皆、民族衣装だ。
あるいはこれが常時もの服装なのかも知れない。



広い盆地は田畑で埋め尽くされている、その一角の村落、
仲々立派な煉瓦造りの家並みがこの辺りの人々のまあまあの豊かさを物語る。







そんな一軒から若奥様が出てきた。
カメラを向けると優しい笑顔で応じてくれた。

寺の入れ口に戻ると、売店が開かれていて、突然、日本語で話しかけられた。
「これはハニ族のものです」
まあまあの日本語だ、20歳くらい、ハニ族の女性だそうだ。
昆明で半年間日本語を習い、後は独学で勉強しているとか、開かれたノートは日本語で埋まっている。 
私の持っていた案内書を見て、
「売って下さい」
と言う、仲々、日本語の教科書が手に入らないのだそうだ。 
貪るように案内書を見ている姿は迫力が有る。


車で、少し奥の漫塁仏寺。
屋根の角角の飾りに特徴がある。
良く見ると、龍のようだ。
横になっている龍は見たが、此所のは皆立ち上がり、或る間隔で屋根の稜線に並んでいる。
何処かで見たことのあるイメージ、と思い出したのは名古屋城の"しゃちほこ"、
もしかして、あの原形ではないだろうか?
しかし"しゃちほこ"は尾鰭を挙げていたような....



一つの部屋で、子供の坊さん達が、勉強している。
あどけない少年達だ、カメラを向けると、Vサインを送ってくる。





利発そうな一人が黒板の前で差し棒を握っている、リーダーのようだ。

お寺の前の道路には店が4、5軒、店と言っても茣蓙の上に柑橘類、豆類がダダッと広げられた店、
ひまわりの種は一掴み一毛、四角い羊羹の様なものも一毛、
一毛は一元の十分の一、
驚くなかれ、日本円で凡そ1.5円なのだ。
店番の老女も中年のおばさんも丸々している。









中学生くらいの女の子達の笑顔の屈託無さは、
今迄見て来た何処の国の女の子にも無いものだ。 



貧しさと顔付きとは必ずしも関係無いと確信する。
この辺は案内書には出てない。
地図だけを頼りでやって来ているのでこの人達が何族かは判らない。
店先に豚がやってきた。



モウコン(「孟子の孟に力」混)で昼食、此所はサンデーマーケットで知られている。
もし日曜日なら人込みで凄いに違いない規模のマーケット、今日は月曜日で閑散、
それでも、何軒かの露店は開いている。

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シーサンパンナの中心が景洪、
ここから西へ車で2時間ほど行った所がモンフン(杪混)、ミャンマーとの国境は間近だ。
モンフンから、また少し入って、
これも案内書には無い弄養布朗族と言う名の部落だそうだ。
モンフンが広々とした平野の中に有るのに、
モンフンから2、3キロしか離れていないこの部落は山間の狭い傾斜地、
石を置けばコロコロと転がり落ちるような所に、民家がぎっしりと寄添っている。  



道路から望む部落の全貌は幻想的、としか言いようが無い。
部落の入れ口に、水場があり、何人かの人達が身体を洗っている。



素っ裸の子供が母親に頭から水を掛けられている。
長い髪を洗っている女も居る、27、8才であろうか、
もろ肌を脱いで、逞しい肩を惜し気も無く出して、チラっとこちらを覗ったが、
何事も無かったように、髪を洗い続ける。

部落の中は、人一人がやっと通れるくらいの小道しかない。
当然、自転車とか耕運機の様な、車輪の付いたものは見掛けない。 
どの家も、丁度、黒沢明の七人の侍に出て来る江戸時代の民家のようだ。
木製で、屋根は萱葺き、壁はなく、竹を縦に編んである。

子供たちが寄って来た、みな裸で裸足、体中埃にまみれている、でも、みんな元気だ。
ワイワイガヤガヤ、カメラに笑顔を向ける。
中に一人、どうしても、はにかんで俯いたままの少女が居た。



古今、少数民族の間でも勢力争いがあり、力の弱い民族ほどこうした山奥に追いやられるのだ。
今日一番始めに訪れたモンハイ(杪海)の近くの部落からは車でたった2、30分の距離なのに、
考えられない差の大きさだ。

子供たちが勢い良く坂を駆け下り出して森の方へ向っている。
アキと目配せして後を追い掛けてみた。
部落の外れの林の中の、風通しの良い、すこし開けた広場で、
二三人の男が石の竈に掛かった大きな鍋から子供たちに何か食べ物を与えている。
大きな木陰だ。
転がっている丸太がテーブルと椅子、天然の食堂だ。
共同生活の一端なのか、食事の世話係が男達なのも面白い。



村の直ぐ脇を、シーサンパンナからミャンマーに抜ける幹線道路が建設中。 
やがて、この村も文明とやらに害されるには時間の問題。 
若い母親が赤子をあやしている、16、7歳だろうか。
「何とか、此の侭にしておいてあげたいですね」
アキが呟く。


モンハイ(杪海)に戻り、アキと別れる。
アキは此所で一泊して、明日、ミャンマーとの国境の町、打挌を目指す。
川の向こうの丘にこじんまりした部落が広がっている。
此処はガイドブックにも出ているハニ族の部落だ。
一人しか渡れない吊り橋を渡り始めると、向こう岸に、民族衣装の女達が現れる。
私が渡り終わるのを待っててくれてるようだ。



左右前後に揺れて覚束ない。
足を急かせれば急かせるほど揺れが大きくなって思うように足が進まない。
吊橋を渡りきると、女達に取り囲まれた、10人くらいはいるだろうか。



手に手に、布、袋、カバン、財布、銀?製の器、等々を目の前に差し出す。
「不要、不要」
と言って、小山のような部落の急斜面を登り始めると、皆、ゾロゾロと付いて来る。
手にしている品物は皆今迄に見た物ばかりだ、何処までも付いて来る。
何か買わなければ納まりそうも無い。 収集している"笛"を思い出した、
「笛はない?」
と、尋ねると、一人の女の子が駆け出して行って、
戻って来ると、手にしているのは、
私が収集の対象にしている民族調の笛ではなく、普通の横笛で余り魅力無い。
80元と言うのも吹っかけている。
しかし、終始くっ付いて来るので、何か買ってあげなくては悪い気がして来た。
リーダー格の女の子が持っていた銀もどきの小さな水差し、50元を遠慮して40元で求め、
あと何のかんのというのを振り切って車の方へ戻る。

吊り橋のところでフッと振り返ると、まだ一人付いて来る、流石にムッとして、
「不要、不要」
と連発すると、何と、黙って差し出したのは私のガイドブックではないか...一瞬息を飲む。
何処かで落としたのだろう、申し訳なくて、銀もどきの腕輪を買ってしまった、二つもだ。

車で1分も行かないうちに、やや大きめの広場が有り、大きな立派な吊り橋も掛かっている。



運ちゃんが指差す方向にお宮らしき物が見える、その右側が、さっきの部落だ。 
さっきの部落への正面玄関のようでもある。
運ちゃんが、
「あそこに**が有る」
と教えてくれてるようだ、その**は何のことか皆目判らない、兎も角、車を降りる。
吊り橋を渡りきると、今度は、小学生くらいの女の子が二人現れた。



さっきと同じような品物を手にしている。
票の様な紙片を差し出して、
「3元」払えと言ってるようだ。
これはガイドブックにも書いて有った、部落への入園料だ、
「小銭を車に置いて来てしまったので、後で払う」
というと、判ってくれたようだ。 とても可愛い少女だ。
「学校は?」
「今、冬休」
私の拙い中国語が通じると言うことは、彼女たちは、普通語が理解出来るのだ。
しきりに何か買って呉れとせがまれるが、心を鬼にして断る。
頂上のお宮まで案内してくれた。
お宮の入れ口に、女性の性器を誇張した像と、等身大の像が二つ有る、

  

「こっちが男、こっちが女」
と説明してくれたが、頭に被っている身体位の長い帽子に葉っぱのような模様がついていて、
その模様が奇数なら男、偶数なら女なのだそうだ、奇妙な像だ。 
お宮の中には直径50センチくらいの黒光りする大きな柱があり、その周囲全面に奇怪な彫刻がなされている。



動物、人間、いや、怪獣、妖怪の顔や全身、これがこのお宮の御神物のようだ。
車まで付いてきた女の子に入園料の3元を払い、二人に1元ずつ上げる、ニコニコ手を振って送ってくれた。


ホテルに戻る、キャッシュが心もとない。
近くの銀行に行くと、本店に行け、と言う、本店に行くと、明日の8時に来い、だと。
市場でブラブラして、昨日の生ビール店へ、道路との境の手摺に肘を掛けて通行人を眺める。
爽やかな気の中でビールが美味しい、2、3杯も飲んでいると、通りかかった白人が話し掛けて来た、
「英語のメニューが有るかどうか聞いてくれないか?」
聞いたら無い、後ろに並んでいる大きな生ビールの貯蔵缶を指差して、
「あれは幾らだ?」
メニューを見て、
「一杯20元だ」
「一杯はどのくらいだ?」
「多分500cc」
と言ってる時に、生ビールを運んで来た。
いつもの悪い癖で、散々飲んでもう一口にと頼んだのが小さいコップだ。
250CCか、これを見た白人、
「高い、高い」
と言って、足早に去って行った。
メニューを見ると、20元/1瓶とあった、昨日、アキと飲んだあの巨大な奴だ。
あの白人には申し訳ないことをしてしまった。

続く

 


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