台北記13

バス停から故宮の入口まで長い石段、
その石段で、京劇の女優と見える美しく着飾った女性たちがポーズを取っている。



何かの撮影のようだ。
其の脇を、女子大生の一団が豊かなお尻の線をくねらせて登ってゆく。

二回目の故宮は味気なかった。
一つ一つゆっくり見ようとしても、どうも落着かない。
携帯電話みたいなインファーム ユニットというのを、日本円で約500円で借り出す。
展示物のNOをプッシュすると、解説や背景の紹介が聞く事が出来る。
唐代の書画、宋代の書画、さらに、元、明、清と大雑把に括られて解説される。



有名な秘宝には番号が付いていて、
その解説も聞く事が出来る。
しかし、いずれも教科書的な解説であり、例のガイドさんの解説に遠く及ばない。
どうも、面白く、意義深く観る為には、
事前に或る程度の知識を詰め込んでおくことが不可欠のようだ。

それでも、書のところを舐めるように見てまわる。
書を志す者なら一度は耳にし目にする顔真卿、蘇東坡の名品が並んでいる。
祭姪文稿、



と寒食詩巻。



私よりも、もっと熱心なのは女子大生達、
一つ一つの書画の前で、じーっと、動かない。
突然後ずさりしたかと思うと、今度はガラスにおでこをくっ付ける。
これが、閉館時間が近づき、辺りに人影が絶えるまで続く。
何か頻りにメモを取ってる子もいる。
多分、美術関係の学生だろう。
彼女たちの目つきは、日本では余りお目にかからない。


慌ただしい故宮見物では仲々気付かないであろう庭園が故宮の敷地内に有る。







中国の伝統的な様式をふんだんに取り入れた古式豊かな、風流なもので、
黄庭堅の松風閣詩にちなんだ松風閣、王羲之ゆかりの蘭亭、などを配した池のほとりに佇むと、
中国の古き良き時代に舞い戻ったような、錯覚すら覚えたものだ。
大白鳥ほどの大きさで、真っ黒な水鳥の番が、故宮や、裏の緑の山々を背景に、
悠然と辺りを払っている泳いでいる様は、中国ならはである。


例によって、不明確のまま、乗車したバスで、
ここいら辺だろうと見当を付けて、下りたのが、やはり志林のちかくだ。
構わずウロウロしていると、人並みと、生臭い匂いと、
売人の掛け声でごった返している市場へ入り込んだ。
異様な雰囲気に背筋が寒くなる。
まだ、日暮れに間があるのに、薄暗い路地に、
灰色の露店が軒を連ねている。
縄で括られ地べたに放り出されている生きた鶏。
金網の中でとぐろを巻いている蛇。
今、殺されたばかりのような豚が、殆ど原形のまんまぶら下がっている。
野菜、果物、まめ、魚、貝、肉、玉子、香辛料、これらが、また、
こんなに種類が有ったのかと思われる程、種々雑多に売られている。
豆だけでもどの位の種類があるだろう。
買い物客は、みんな土地の人々のようだし、みんな普通の顔をしている。
このあたりの胃袋なんだろう。
2、3日前の華西街とは、全く趣が違う。
旅行者は殆どいない。

通りに戻ると、ガラリと変わる。
日本でもおなじみの、レストラン、ファーストフードの店が並ぶ。
並ぶというと、大袈裟かも判らない。
其の中の一軒、台湾名のレストランの二階に昇り、通りを見渡せる席に腰を下ろす。
客は少なく、子供連れが2、3組いる程度だ。
どうも、軽喫茶のようだ。
ビールと何か軽いもの、を注文、ところが通じない。
奥から別のボーイが出て来た。 どういう訳だか、女の子が二人ついて来る。
[ナニヲサイアゲマスカ]
たどたどしい日本語、付いてきた二人の女の子が、
広げられたメニューと彼と私を交互に覗き込んで、
私とそのボーイが言葉を交わすたびに、嬌声を上げる。
私も、始め何のことか狐につままれたみたいだったが、わかった。
そのボーイは目下、日本語勉強中らしい、
その成果が如何なものかと女の子たちが立合った様だ。
驚いたことに、出てきたビールは氷入れだった。
窓から通りを眺める。
斜め下に、歩道の上にデンと構えている畳一畳程の屋台の全貌が見える。
車道を背に、中年の夫婦が仲睦まじしく頻りに調理している。
リズミカルに動く二人の体と、四本の腕、
あたかもダンスをしているように、呼吸がぴったりだ。
湯気が迸ってる大きな鍋が二つ、料理が山と盛られた大皿が三つと、
中くらいの鍋が二つ、あと、箸立て、調味料が処せましと並んでいる。
鍋、釜、ボンベは車道まではみだしている。
客は、垢抜けたスタイルの若いアベックと編み笠を被ったおばさん。
若い二人は長い足を歩道に投げ出しているが、
おばさんは両足をキチンと揃えチョコンと坐っている。

地図を広げると、さっきの市場は華栄街とあった。
更に調べると、志林夜市は近い。

志林夜市の方角に歩き出す。
歩くと結構距離が有る、丁度バス停の処で、来合わせたバスに乗る。
一駅でおりる。
志林夜市は華西街とも華栄街とも異なる。
若者の街だ。
やたら、アベックが多い。
ジーンズショップ、若者向きのファションの店が建ち並び、
迷路のような路地の隅々まで若者が溢れている。

Bさんご紹介の志林官邸は行きそびれてしまった。
台北駅に戻ると9時を廻っている。駅の二階の食堂街を覗く。
殆ど客が居ない、みんな三越の地下街に客を取られてるのかなと思いながら、
その三越の地下街へ行くと、こちらも、昨夜程の人波はない。
それでも、何か挑戦してみようと、声をかけると駄目だと手を振る。
辺りの店が掃除を始め出した。
駅の食堂街も三越の地下街も9時半迄なのだ。
外は人、人でゴッタがえしているのに......

つづく

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