台北記11
台湾大学
9時一寸前、省立博物館はまだ開いてないようだ。
左右の庭園、いや、博物館が公園の中にあるのだろう。
その庭園では、沢山の人が、踊っている。
良く見ると、一塊は太極拳、別のグループは社交ダンス、
エアロビクスみたいので跳ね回ってるグループもある。
博物館の玄関前は舗装されており、一寸した広場になっている。
何人かの人が、新聞広げたり、朝食広げたりしている。
一人の初老の男が、無心に、紙飛行機を飛ばしては拾い、また、
飛ばしては拾いしている。 一寸、知的障害者風だ。
それにしても、台湾にも紙飛行機が....
時計を見ると、9時を廻っている。
入れ口は閉ざされたままだ。おかしいなと思い、
近づくと、ビラが張って有る。
どうも、休館らしい。
側にいた男に、身振り手振りで確認すると、
「いま、博物館は改造工事で休館中です」
見事な日本語が返ってきた。
ヤバイ! 俺としたことが!貴重な時間を潰してしまった。
さて、急遽、計画変更だ。
と、男が話し掛けてきた。
「あなた日本から来られましたか?」
気が付くと、さっきから、飛行機を飛ばしている男だ。
片目が無い。
ギラギラ光る片目で見据えられると、一寸、たじろぐ。
「私は、定年退職して、今、年金生活です。
子供の時、日本人の先生に連れられて、この博物館に来ました。
懐かしくて、毎朝、ここに来て、教えてもらった紙飛行機を作って飛ばすんです。」
ピクリと好奇心に誘われたが、早く、次の行動を起こさないと、
「すいません。急いでますので。」
と、戻り掛けると、
「もう一寸だけ聞いてた下さい。あなた、何県の方ですか?」
「静岡県です」
突如、男は歌い出した。
戦前の一都二府四十三県(これは戦後かな?)を歌い込んだ、
あの数え歌のようなの、薄ら薄ら記憶がある。
続けて、茨城県、高知県を歌い出した。
斜めにお辞儀をしながら、草々に辞したが......
何とも心残りだ。

博物館前停留所は、例によって、止めど無くバスが通る。
自分の乗りたいバスが来たら、身を乗り出して手を上げないと
すーっと通り過ぎてしまう。
たまたま、目の前の停留所の立て札に、台湾大学の文字が見えた。
その番号のバスに乗り込む。
座席は満員で、2、3人の人が立っている。
さてと、バス路線図と案内書を見比べながら、台湾大学から、
S先生宅への行き方を、調べる。 バスの揺れ方が酷い。
と、目の前の座席の中学低学年位の、自由学園のに似た制服の女の子が、
はにかんだ笑顔を少し斜めにして、私の顔を見て、
小さな声で何か言いながら、立ち上がった。
どうも、私に坐れというらしい。
私が、手を横に振ると、女生徒は席を離れ、運転手の後ろの棒につかまった。
生まれて初めての経験を台湾でするとは.....

バスがだんだん混んできた。
殆どが学生のようだ、 女が多い。
台湾大学で、殆どの客が降りる。
みな、目の前の校門の中に吸い込まれてゆく。
学生時代の数々の悪事や不勉強が照れくさくて、私は殆ど母校へも顔を出してない。
久しぶりの学園風景だ。



それにしても、女学生が多い、 ざっと、70%は女だろう。
皆、胸を張っている。
これからの台湾の更なる変貌を予言しているようだ。

構内の道の両側にはズーット彼方まで、ところ狭しと自転車が並んでいる。
道いっぱいの学生たちは、三々五々途中の校舎に消えてゆく。
自転車が無くなると、今度は両側は車の列だ。
10分も歩いて、直角に右に曲がり更に右に曲がると、
構内のメイン道路のようだが、人通りは疎らだ。
高い高い椰子の並木を涼風が通り抜ける。
さっきは、学生たちと同じ方向に歩いたが、今度は、学生たちと行き交う事になる。
男の子も女の子も、黒い瞳を輝かし、一人一人、素朴で純真そうだ。
女子学生の服装も容貌も清らかで、
日本の学園でよく見受けられるあの下卑た華やかさはない。
かといって、垢抜けもしている。
体型も、プラスしてるかも。

ジーンズを見事に着こなし、肩まで届く艶の有る長髪を風に靡かせ、
切れの良い大股で通り過ぎる子、
ヴァイオリンを小脇に抱えて、伏し目がちに、小走りに走り去る子、
写真を撮っていると、誠実そうな子が通りかかった。
手まねで、頼むと、はにかみながら写真を撮らせてくれた。



真っ白な歯を見せ、行き去った。

バス通りに戻る。
歩道はスクーターでいっぱいだが、歩道の中央が丁度スクーターが走れる
空間が有り、そこを学生たちが、勢いよくスクーターで走って来る。



これも女子学生が多く、両足をいっぱいに広げ、
勇敢に走って来る姿はいかにも屈託がない。

台北駅行きのバスを途中で降りて、S先生宅方面行きのバスに乗り換える。

つづく


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