続 麗江記7

中甸から麗江に戻って、その足で、直ぐ、邵のいる事務所へ。
事務所は客で一杯、邵が
「一寸待ってて」
と目配せを送って来る。
一段落すると邵が、
「まだ、宿が決まってない、もう少し待って」
と電話を掛け捲っているようだ。

ようやく案内されたのは、歩いて1分と掛からない直ぐ隣のホテル、
部屋に入ると、先客が居る、 相席らしい。
案内した女性、彼女が後で邵の恋人と知った楊静だ。
その楊静が笑顔で、先客に事情を説明する、
始め大声を上げていたが、やがて静まった。

大声で話す元気の良い男、30歳くらいか、
四川省の成都から来た気風の良さそうな軍人だ。
キビキビとしていて気持ちが良い。  
兄嫁とその娘さんが隣の部屋、そこへ私が詰め込まれた感じだ。
その軍人さん、いきなり、
「日本のお金を見せてくれ」
と言うので、10円、100円、500円硬貨を見せると、しげしげ見つめる。
「あげるよ」
というと、始めは遠慮していたが、
「ありがとう、ありがとう」
と、一枚一枚、何回も何回も、表裏をひっくり返していたのが印象的だ。

夜、邵達が仕事を終えてから、中甸に行く前の約束通り宴会。
疲れているだろうに、春麗、和、鐘、邵、楊静が集まって来た。
春麗が相変わらず、持ち前の笑顔と快活さで席を盛り上げる。

話題は去年親交の有った人達の話題になる。
顔見知りの王さんと、鄭さんは結婚して麗江を離れたらしい。

私が、春麗に、
「可君はどうした、この間、君と可君が手を組んで帰ったのを見たぞ」
と言うと、春麗は顔を真っ赤にして、
「あれは、手が絡まっただけだ、本当に何でもない、ってば」
しきりに弁解するが、廻りは、ワイワイ囃し立てる。

邵に鉾先が向かう、
春麗が、邵と楊静がデキてると大袈裟な身振りで披露する。
邵は例の笑顔を浮かべて、チラチラと楊静を見る。
楊静は、去年見掛けなかった顔だ。







部屋に戻ると、軍人さん、読書に余念ない、
「酒を飲まないか」
と差し出すと、首を横に振って、
パンツ一枚になって布団に潜ると直ぐ鼾をかき出した。
一応、私の帰りを待っていたようだ。

810
朝目覚めると、ベンさんの寝床は空だ、流石、軍人は規則正しい。
また、ウトウトしているとドアが鳴って、
軍人さんが兄嫁とその娘さんを連れて入って来た。
聞いていた四川人にしては小柄で品の良いおっとりした兄嫁さん、
娘さん、7、8歳、も絵に描いたように可愛い。
残っていた髪飾りを進呈すると、飛び上がって喜ぶ。

娘さんが、たどたどしい字で、成都の見所をメモしてくれた。
成都と日本の話が交叉する。
「成都はとっても良い所よ、一度いらして下さい」
最後に、名前、住所、電話番号を書いてくれる。
(後日談:慌てて、その辺に転がっていた紙片にメモして貰ったが、
このメモを紛失、残念。
大事なメモは必ずノート、手帳等にすべきである)

例の店で朝粥はもう売りきれ、仕方なく素緬、
相変わらずおばさんも娘さん達も、いそいそと働いている。
下の娘さんが、ナシ族独特の竹製の駕籠を背負って出掛けて行った、
買い出しだろう。
「何処へ行って来た?」
おばさんが、真一文字に結んだ重い口を開く、
「中甸」
と、言うと、
「そうか、そうか、良かったな」
と、頻りに肯く。

邵の事務所へ顔を出すと、もう、てんやわんやの忙しさだ。
ホテル、ツアーの予約、飛行機、バス、レンタルカーの手配、
キャンセル、カウンターには客の列、
これらをみんな手作業でやるから大変、堆い伝票を、必死に捲っている。

それでも何とか、明日の麗江行きの切符は確保してもらえ、
邱さんにもホテルの予約が頼めたようだ。
四方街で、書友たちへの東巴文字の篆刻を注文、
あとは、お世話になった邱さんへの手土産を探す。
中国人、しかも、旅行社の人、難題だ。
思いあぐねた末、高さ一尺程の馬の彫刻、260元を150元。
気持ちの問題だと、自分に言い聞かせる。
(後日談:昆明で私が定宿にしている邱さんの息の掛かったホテルの売店に、
同じ物が90元で並んでいた。
邱さんへは、木さんの彫物を廻す。
彼女は手を広げて喜んでいたが、多分、ゼスチャーだろう。
お土産は難しい。)









つづく

 


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